退院前に見ておきたい場所と観点
家の中で、転倒(転んでしまうこと)やつまずきが起きやすいのは、だいたい決まった場所です。場所ごとに見るポイントを表にまとめました。すべてを当てはめる必要はありません。「うちの親はここが心配だな」と思うところから見てみてください。
| 場所 | 見ておきたいところ |
|---|---|
| 玄関 | 上がり框(あがりかまち=靴を脱いで家に上がるときの段差)が高くないか/つかまれる手すりがあるか/靴の着脱のときに座れる椅子があるか |
| 廊下 | 歩くときにつかまれる場所があるか/通り道に物が置かれていないか/夜に暗くて足元が見えづらくないか/敷物のふちや電気コードにつまずかないか |
| トイレ | 立ち座りのときに支えになる手すりがあるか/夜にトイレまで安全に移動できるか/ドアの開け閉めがしやすいか |
| 浴室 | 浴槽をまたいで入るのがつらくないか/床が滑りやすくないか/洗い場で腰かけられる椅子があるか |
| 寝室 | ベッドか布団か/起き上がりや立ち上がりがしやすいか/寝る場所からトイレまでの動線(通り道)が安全か |
ポイントは、「歩けるかどうか」だけでなく、立つ・座る・またぐ・つかまるといった一つひとつの動作で見ることです。たとえば玄関の上がり框は、平らな床を歩くのは平気な方でも、段差を上り下りするとなると急にバランスを崩しやすくなる場所です。こうした「動作が変わる境目」に、つまずきや転倒のリスクが隠れています。
なお、手すりをつける高さや位置には一般的な目安はありますが、ご本人の身長・手の届く範囲・どちら側でつかまりたいかによって変わります。詳しくは 手すりの位置と高さ もあわせてご覧ください。
全部直さなくていい・優先順位のつけ方
家のあちこちが気になり始めると、「ここも、あそこも工事しなきゃ」と感じてしまいがちです。でも、最初から全部を工事する必要はありません。優先順位を考えるときは、次の順番で見ていくと整理しやすいです。
- 毎日必ず使う場所か — トイレや寝室など、一日に何度も行き来する場所は優先度が高くなりやすいです。
- 転んだときに大きなけがにつながりやすい場所か — 浴室や玄関の段差など、滑ったり転落したりすると影響が大きい場所です。
- ご本人がいちばん「ここが不安」と言っている動作か — 実際に暮らすのはご本人です。ご本人の困りごとを中心に考えると、無駄が少なくなります。
すべてに丸をつけるのではなく、「まずはここから」と一つか二つに絞って始めると、ご家族の負担も費用の負担も抑えやすくなります。退院してしばらく暮らしてみて、「やっぱりここも必要だった」と分かってから追加する、という進め方でも構いません。
工事の前に使える手段(福祉用具・相談先)
「気になるところは工事しかないのかな」と思われるかもしれませんが、工事をしなくても対応できるものもあります。
たとえば、床や壁に置くだけの据え置き型の手すりや、ベッドの脇に置く手すり、浴室用の椅子、滑り止めマットなどです。こうした福祉用具(ふくしようぐ=介護に使う道具)のなかには、介護保険を使ってレンタル(借りること)や購入ができるものがあります。工事に比べて、すぐに用意できて、合わなければ変えられるのが利点です。ただし、何が対象になるか・どう手続きするかは制度で決まっていて、状況によっても変わります。まずはケアマネジャー(介護の相談にのってくれる専門職)に相談するのが確実です。
そして、退院前には心強い場があります。多くの場合、退院前カンファレンス(ご本人・ご家族・病院のスタッフ・ケアマネジャーなどが集まって、退院後の生活を一緒に話し合う場)や、退院前訪問指導(理学療法士・作業療法士などが退院前にご自宅をうかがって確認する取り組み)を受けられることがあります。こうした場では、「玄関の段差が心配です」「お風呂が不安です」と具体的に相談できます。専門職の視点で、工事が要るのか、福祉用具で足りるのかを一緒に整理してもらえるので、迷っているときほど頼ってみてください。介護保険の手続きや利用できるサービスについては、ケアマネジャーや、お住まいの地域包括支援センター(高齢者の暮らしを地域で支える相談窓口)が案内してくれます。
工事が必要なときは相見積もりを
福祉用具では足りず、やはり工事(段差をなくす、手すりを壁にしっかり固定する、など)が必要だと分かることもあります。介護保険には住宅改修の費用を一部支えてくれるしくみもありますので、あわせて 介護保険の住宅改修費とは もご覧ください。
このとき大切なのは、退院が迫っているからと、あわてて1社だけで決めないことです。同じ工事でも、会社によって提案の内容も金額も変わることがあります。できれば複数の会社から見積もり(相見積もり=同じ内容で何社かに金額を出してもらうこと)をとり、見比べてから決めると安心です。どんな点に気をつけて会社を選べばよいかは、失敗しない介護リフォーム業者の選び方 で詳しくまとめています。
まとめ
退院が近づくと、つい「家じゅうを完璧にしなければ」と気持ちが焦りがちです。けれど、大事なのは順番です。
- 玄関・廊下・トイレ・浴室・寝室を、動作の境目に注目して見てみる
- 全部を一度に直さず、毎日使う場所・困っている動作から優先する
- 工事の前に、据え置き型の手すりや福祉用具など、すぐ使える手段がある
- 退院前カンファレンスや訪問指導で、理学療法士・作業療法士・ケアマネジャーに相談できる
- 工事が必要なら、あわてず相見積もりをとる
ご本人が「家に帰ってきてよかった」と安心して暮らせることが、いちばんの目標です。迷ったときは一人で抱え込まず、退院前の相談の場をぜひ使ってみてください。
※この記事は一般的な情報をまとめたものです。お一人おひとりの体の状態や介護・医療的な判断は、主治医・ケアマネジャー・地域包括支援センター等にご相談ください。介護保険・補助金などの制度や金額は変わることがあるため、最新はお住まいの市区町村でご確認ください。